「1対1の関係を育むこと」

 読み優先の漢字指導で一貫する姿勢は「子ども同士の取組」ということです。
 漢字音読名人に取り組み始めた段階では教師によるチェックの形を取っていた学級もありましたが、子ども同士の取組の方が圧倒的に生き生きと取り組むことから、子どもに委ねる形に切り替わっていきました。教師のチェックから子ども同士に活動に替えた学級担任の声です。

○友達同士で聞くという方法にやり方を変えてからは楽しんで取り組むようになった。友達と話すきっかけになるのは大きいと思う。少しでも先に進みたいがために、男女で聞き合いをする姿も見られた。また、普段静かなクラスなので、ためらいなく声を出せる時間があるのは、リラックス効果などもあるのではないかと思っている。

○ペア学習がやりやすくなった。(日常的に)言い合うことができる。

○子どもたちのアンケートの記述から「友達と一緒にやれて楽しかった」という意見が多かったので、クラスづくりの方法の一つとしても使えると思いました。

○ペア活動をしながら漢字学習できるので、子どもと子どもがつながる。

○となり同士で楽しく取り組めていたので関係がよくなると思います。
 
 教師対子どもという縦の関係より子ども同士の対等な関係の方が開放的になれるというのは、当然ですが、ここにはもっと重要な意味があると考えています。
 人の発達過程は、母子一体の二者単一体から始まり、母親は自分に奉仕する他者(泣いたらお乳をくれる・おむつを替えてくれる等)という認識が生まれ、やがて母親は自分とは別の意思を持つ他者という認識に変わります。その次の段階として、自分と対等な他者との一対一の関係を理解する時期が来ます。この一対一で対等にやりとりする経験を十分に満たさないとその次の一対多(集団の中で自分を保つ)関係に進めないと言われています。ところが、少子化・核家族化という環境の中、今の子どもたちは、一対一の対等な関係を十分に満たせないまま育っています。幼児期から家庭できめ細かく管理され(あるいは虐待という形で放置され)、野原に群れて遊ぶ経験もなく、学校が終われば塾通い、道草の自由すら奪われているという状況の中で、一対一の関係性を学ぶ機会を失ってしまっているのです。年々深刻になるいじめ、不登校、学級崩壊などの問題の根底には、この一対一の関係性の未成熟があると見るべきです。
 一対一の関係性を豊かに育む場が今の子ども達には不可欠です。その視点から見るとき、漢字音読名人の取り組みは、極めて有効な場になります。漢字音読名人では、学力の高い子も低い子も対等に聴き合うことができます。判定者として誰もが主役になることができます。聞き合いを続ける中で一対一の関係が育ち、自分の居場所として学級が感じられるようになり、子ども同士がつながりあう温かな学級集団になっていきます。
 3年間続けて取り組んでいるG小では、学校全体がすっかり落ち着き、どの学級でも、授業で担任が「グループで話し合ってみて」と言えば、すっと話し合いが始められる子どもたちになっています。